たけじいの残日雑記懐古控

「日残リテ昏ルルニ未ダ遠シ」・日記風備忘雑記懐古録

物語「寄り合い家族」

「寄り合い家族」 No.018

第4章 「巣鴨の家」(3) 千代子が、尋常小学校を卒業してからも、くには、千代子を連れて、駒込の松本邸に通っていたが、善蔵、良重夫婦は、そんな、くにと千代子母娘に、主人と使用人の関係を超えて、温かく接してくれた。くにが、掃除、洗濯、食事の支…

「寄り合い家族」 No.017

第4章 「巣鴨の家」(2) 正月気分もおさまり、よく晴れて風も無く、陽射しが温かく感じる日だった。くには、盥(たらい)に汲んだ井戸水で、せっせと洗濯に精を出していたところだったが、通りの板塀から、ひょっこり顔を覗かせた入江綾子が、「くにさん…

「寄り合い家族」 No.016

第4章 「巣鴨の家」(1) くにと千代子は、引っ越してきた巣鴨の家で、昭和10年の正月を迎えた。内縁の夫源吉を亡くしてから、1年が過ぎたばかりだったが、くににとっては、初めて自分の家を持った感慨が有って、晴れがましく、玄関にお飾りを設え、近…

「寄り合い家族」 No.015

第3章 「くにと千代子」(6) 内縁の夫源吉を不慮の事故で亡くしてしまったくには、これからどうしたものか、思案に暮れながら、過ごしていたが、それから半年も過ぎた頃になって、ようやく、千代子をしっかり育て上げるためには、働くしかなく、いろいろ…

「寄り合い家族」 No.014

第3章 「くにと千代子」(5) 張作霖爆殺事件、柳条湖事件・・・・、関東軍の自作自演の事件をきっかけに、昭和7年(1932年)、傀儡国家に反対していた犬養毅内閣総理大臣が殺害される「五一五事件」が発生、昭和8年(1933年)には、日本は、国…

「寄り合い家族」 No.013

第3章 「くにと千代子」(4) くにの食堂は、開店してから順調に客足が伸び、学生や若い勤め人等の客常客も付き、外目からは、繁盛しているように見えたが、わずか3年で、突然、閉店することになった。閉店した表向きの理由は、採算が合わなかったという…

「寄り合い家族」 No.012

第3章 「くにと千代子」(3) 千代子が尋常小学校へ通い始めて、1年が過ぎ、2年が過ぎた。くににとっては、夢にまで見ていた、子供を中心にした、賑やかで平穏な家庭が実現出来て、充実した日々になっていたが、それまで、千代子を自分の娘として育て上…

「寄り合い家族」 No.011

第3章 「くにと千代子」(2) 明治24年、埼玉県の農家の次女として生まれ、幼くして、東京の小料理店に奉公に出された石澤くには、三十路前後から、渋谷で、鳶職の阿藤源吉と同棲し、人並みの安定した暮らしに入っていたが、自分の生い立ちや、その間の…

「寄り合い家族」 No.010

第3章 「くにと千代子」(1) 3歳の時に実母と死別し、実父とは4歳で離別した千代子は、5歳の時、運命的な出会いで、自分の子供がどうしても欲しかった石澤くにの養女となった。くにには、内縁の夫、鳶職の阿藤源吉がいたが、源吉もまた、大の子供好き…

「寄り合い家族」 No.009

第2章 「出自」(3) 千代子が、17歳になった頃、実の兄徹郎が千代子に打ち明けた話が有る。実の父木村甚一郎は、千代子を、くにの養女にしてまもなくの昭和6年2月に、松本の甚一郎の実家の遠戚に当たる柳萬善太の養女、柳萬キクと再婚して、東京市豊…

「寄り合い家族」 No.008

第2章 「出自」(2) 話が前後することになるが、3歳の時に実の母親と死別し、5歳の時に実の父親と離別、石澤くにの養女となり、くにの娘として育った千代子が、実の父母、木村甚一郎やよ志のこと、木村家のこと、自分の出自のことを、一番最初に知るこ…

「寄り合い家族」 No.007

第2章 「出自」(1) 千代子は、3歳の時に、実の母親よ志と死別し、実の父親木村甚一郎とは、4歳で別離、親戚に預けられ、石澤くにの養女になり育ったため、実父母の記憶は、全く無いまま、くにの娘として明るくすくすくと育ち、少女時代を過ごしたが、…

「寄り合い家族」 No.006

第1章 「出会い」(6) やがて、その日がきた。くにと源吉は、早朝から落ち着かなかったが、町内会世話役の市和田春治がやってきて、居間にでんと座ってくれたところで、ようやく深呼吸し、心の準備も整った。約束通り、10時を回った頃、木村助三郎が、…

「寄り合い家族」 No.005

第1章 「出会い」(5) お彼岸も過ぎ、すっきり澄んだ秋空の9月下旬の昼下がり、くにの家に、木村助三郎がやって来た。昨年の暮、くにが千代子と初めて出会った日、家まで送って行ったことがあったが、玄関先で、千代子の頬を打ち、怒鳴った男、助三郎だ…

「寄り合い家族」 No.004

第1章 「出会い」(4) 町内会の世話役市和田春治が、千代子の家(木村助三郎の家)を訪ねてくれたのは、お盆を過ぎ、朝夕にいくらか秋の気配を感じるようになってからのことだった。春治は、その足で、くにと源治の家にやってきて、「なにしろ、俺が突然…

「寄り合い家族」 No.003

第1章 「出会い」(3) 石澤くにの「子供が欲しい」は、鳶職で、大の子供好きな内縁の夫源吉も、承知していることだったが、一緒に暮らし始めて10年過ぎても、子宝には恵まれず、二人は、半ば諦めていたところだった。周囲の人にも、「子供が欲しい」、…

「寄り合い家族」 No.002

第1章 「出会い」(2) 石澤くには、明治24年(1891年)9月に、埼玉県北葛飾郡豊岡村の農家、石澤又蔵、キオの次女として生まれているので、5歳の千代子と初めて出会った昭和2年頃は、30代半ばの女盛りだった。その頃は、内縁の夫、鳶職の阿藤…

「寄り合い家族」 No.001

まえがき 平成の時代に入ってまもなくの頃の話である。その頃はまだ、母親は北陸の山村で一人暮らしをしていたが、すでに認知症の症状が現れ始めていた。大正12年(1923年)に、薄幸の星の下に生まれ、運命の為すがまま、激動の大正、昭和、そして平成…