たけじいの残日雑記懐古控

「日残リテ昏ルルニ未ダ遠シ」・日記風備忘雑記懐古録

藤原緋沙子著 「龍の袖」

図書館から借りていた、藤原緋沙子著 「龍の袖」徳間書店)を読み終えた。
何の予備知識も無く借りてきた書で、表題「龍の袖」とは?、・・・だったが、
読み進める内に、その意味が分かって来る。
本書は、その「龍の袖」をキーポイントにし、一生を、坂本龍馬への想いで貫いた
女性千葉佐那の、切なくも凛とした生き様が感動的に描かれた長編時代小説だった。

 


読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、
その都度、ブログ・カテゴリー 「読書備忘録」に 書き留め置くことにしている。


 

▢目次
 夢の中、蒼い風、品川の海、婚約、龍馬の死、慟哭、追想、千葉の灸、佐那の死、

▢主な登場人物
 千葉定吉(千葉道場道場主)・瀧・重太郎・梅尾・佐那、里幾(りき)・勇太郎、
 幾久・はま、
 なつ、かな、
 千葉周作玄武館道場主)
 伊達宗紀(伊達宇和島藩先代藩主)伊達宗城・正姫・節姫・伊達宗徳、
 坂本龍馬・乙女、お龍おりょう中岡慎太郎
 小田切謙明・豊次、
 谷千城(たにたてき、学習院第二院長)板垣退助
 弥治郎(弥兵衛)
 岡田以蔵、おきち、武市半平太
 山口菊次郎、串田八十吉・藤、

▢あらまし等
 北辰一刀流千葉周作の弟、千葉定吉の次女で、女剣士でもあった佐那が、坂本
 龍馬と出会い、相思相愛の間柄となり、自他共に認める許嫁となるが、激動する
 幕末、結局、結ばれることなく、苦しい思い出のみ抱きながら、明治29年
 10月15日、59歳で、そ
の生涯を閉じる。
  
女中のふみが見守る視線の先で、佐那は無言で次々に日記を火に投じていく。
  佐那は心の中でつぶやいていた。
  思い出が消えていく・・・・・、
  龍馬と会った時の心のときめきも・・・、
  会えぬ龍馬に苛立ちを隠せなかった自分に戸惑う女の心も・・・、
  そして龍馬の死を告げられた時の慟哭と失意の姿も・・・、
  自分の人生から消してしまいたいと思った山口菊次郎との忌まわしい
  暮らしも・・・、
  更に学習院の暮らしと谷千城の言葉を書いた頁も、小田切謙明と豊次夫婦の
  温かい交遊のページも・・・、
  佐那は全ての日記を焼き尽くし、灰の中の熾火も消え、微かな風に紙の形を
  した灰がゆらゆらと揺れるのを確かめて、よろよろと立ち上がった。


藤原緋沙子著 「坂ものがたり」

図書館から借りていた、藤原緋沙子著 「坂ものがたり」(新潮社)を読み終えた。
本書には、坂の多い江戸の4つの坂を舞台に、たとえ苦しくとも毎日をていねいに、誠実に生きる人々の哀歓を描いた、「夜明けの雨ー聖坂・春」、「ひょろ太鳴くー鳶坂・夏」、「秋つばめー逢坂・秋」、「月凍てるー九段坂・冬」、の人情短編時代小説4篇が収録されている

 


読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、
その都度、ブログ・カテゴリー 「読書備忘録」に 書き留め置くことにしている。



「夜明けの雨ー聖坂・春」
◯主な登場人物
 吉兵衛(呉服問屋「岩田屋」主、佐七)・おきの、先代吉兵衛・おたけ、
 与之助、清吉、藤次、おかね、おまつ、
◯あらすじ等
 幼馴染みのおまつとの約束をたがえ、奉公先岩田屋の一人娘おきのの婿となり、
 主に収まった佐七(吉兵衛)だったが、先代吉兵衛が他界するやいなや、義母の
 おたけの苛烈な非難皮肉を浴びる毎日となってしまい、・・・・、
 おまつが聖坂下で女郎に身を落としていると知ると・・・・・、
   
なるようになる。いや何とかしてみせると吉兵衛はゆっくりと踏み出した。
   ひと足ひと足、地に着けて吉兵衛は聖坂を下っていく。
   ・・・・これでいいのだ、これで・・・・、
   冷たい雨も吉兵衛には心地よかった。

「ひょろ太鳴くー鳶坂・夏」
◯主な登場人物
 源治・おなか・おやえ、
 おくま、
 直次郎、安蔵、宗助、友蔵(油屋「大黒屋」手代)

 ひょろ太(鳶)
◯あらすじ等
 助けた鳶のひなに、ひょろ太と名付けて育て放鳥した源治、妻おなかは行方不明に
 なってから酒毒に冒され・・、娘おやえが想いを寄せる直次郎が、
元兄弟子安蔵
 に騙され・・・、それを知った、直次郎は?、源治は?・・・。
   
「うっ」
   振り向くと、そこには匕首を構えた宗助が見えた。
   直次郎は、たった今自分が刺されたのだと知った。とたんに肩口に痛みが
   走った。
   ・・・・、
   「おっかさんに会ったら、ありがとうって、伝えて、直さん」
   直次郎は大きく手を上げて返事した。
   「ぴーひょろ・・・」
   ひょろ太たちは、旋回して更に空高く飛び上がった。
 
「秋つばめー逢坂・秋」
◯主な登場人物
 お幸(おこう)・清之助(せいのすけ)、清兵衛、捨丸、
 岸井左内・俊太郎、脩平、
 おさよ。お波、
◯あらすじ等
 町医者の娘お幸と船宿天満屋の清之助は、将棋仲間の親同士も認めた許嫁、好き
 あって結婚したはずだったが、清之助は商売をお幸に任せ、逢坂(おおさか)の上に
 通っていくようになり・・。何故?、揺れる動くお幸の切ない思い。
   
・・・・でも、もう遅すぎる、何もかも。
   そう打ち消すお幸の胸に、暑い物がじわりと広がっていく。
   「清之助さん」
   お幸は、簪を胸に当てて今下りてきた坂を振り仰いだ。

「月凍てるー九段坂・冬」
◯主な登場人物
 刈谷又四郎、刈谷精之進・宇乃、初瀬、松平、おふく、
 おまさ(料理屋「美濃屋」女将)、おたつ(甘酒屋)
 直蔵(岡っ引き)、伊八(下っ引き)
 佐久間久蔵(堀万之助)、佐久間忠左衛門
 伊勢守忠近(上野国黒山藩藩主)、中根兵庫(上野国黒山藩執政)、
 永井定之助、
◯あらすじ等
 兄刈谷精之進を殺し出奔した佐久間久蔵を仇討ちするため、江戸九段坂で張り込む
 又四郎に、さらに国許より嫂宇乃自害の知らせがもたらされ・・・、
   
「又四郎さま」
   おふくの目に涙が光る。
   俺は、仇討ちは果たしたものの・・・・・、
   一番大切なものを失ったのだ。
   「すまぬ、おふく」
   又四郎は手をのばしておふくのの頬に落ちる涙をふいた。

藤原緋沙子著 「百年桜」

図書館から借りていた、藤原緋沙子著 「百年桜」(新潮社)を読み終えた。
本書には、「百年桜」、「葭切(よしきり)」、「山の宿」、「初雪」、「海霧」の短編時代小説5篇が収録されている
いずれも、江戸の下町、隅田川の近くが舞台で、江戸の町人の人情味が溢れている作品である。

 


読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、
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「百年桜」(表題作)
◯主な登場人物
 新兵衛(呉服問屋「大津屋」手代、常吉、利左右衛門(呉服問屋「大津屋」番頭)
 伊助(新兵衛の幼馴染、木綿問屋「浜中屋」手代、清治、與之助)、綱五郎、ぼたん、
 銀蔵(岡っ引き)、神保喜八郎(北町奉行所定町廻り同心)、
◯あらすじ等
 12歳で奉公した「大和屋」で苦節15年、やっと手代小頭に昇進出来る日が
 近づいていた新兵衛だったが、ある日、店に2人組の賊の押し込みが有り、賊の
 一人の目を見て新兵衛は凍り付いた。故郷近江蒲生の百年桜の下で、永久の友情を
 誓い合った幼馴染の伊助ではないか?、疑念を抱きはじめ、探索を始めるが・・。

   新兵衛は、こみ上げるものを飲み込んだ。
   ・・・・悔いはない。小頭がなんだ。
   歯を食いしばって、迫る闇に視線を投げた。

   「旦那、ご覧なさいやし、みごとですぜ。この刻限に見る桜は・・・」
   新兵衛の目には、それが蒲生の百年桜に見えていた。

「葭切(よしきり)
◯主な登場人物
 大和屋忠兵衛・おりつ・房次郎・おらん・おゆき、
 伊勢屋信太郎、
 啓之助、時江、松尾託間、工藤猪十郎、
◯あらすじ等
 茶道具屋「大和屋」の娘おゆき(22歳)は、親が決めた婚礼が迫っていたが、
 1年に1度しか会えない啓之助への想いが有り、揺れていた。

 やっと再会出来た啓之助は、山流し(甲府勤番)へ旅立つという。
 どうする、おゆき、・・・。
   見詰め合う二人の耳に葭切の声が聞こえてきた。
   ギョ、ギョシ、ギョ、ギョシ・・・・、
   おゆきにはその鳴き声が、二人を見送る喜びの声のように聞こえた。

「山の宿」
◯主な登場人物
 おまき、万平、
 奥井継之進、安西吉之助、矢崎大三郎、砥部左馬助(とべさまのすけ)
 奥井盛之助・理恵、奥井孫右衛門、
◯あらすじ等
 奥井継之進は、出羽国里見藩の勘定組頭奥井孫右衛門の次男、部屋住み、冷や飯食
 いの悲哀を一身に纏い、上意討ちを果たすが、国元を出奔。
 江戸から、その継之進死去の知らせを受けた奥井家は、表沙汰には出来ず、かって
 奥井家で継之進に愛された、元女中のおまきに、遺品引き取りを頼むことになった
 が・・・。
 「山の宿の渡し」を渡り、江戸の地を踏んだおまきは、継之進の死の謎を知ることに
 なる。

   継之進さまの使命とは。もしや・・・・、
   と見返したおまきに、吉之助はきっぱりと言った。
   「天誅だな、俺はそう思っている」
   継之進さま、一緒に帰りましょうね。おまきは、船が着くのをじっと待った。

「初雪」
◯主な登場人物
 秀治、おかよ、
 与兵衛、おかじ、茂兵衛、佐多蔵、惣二郎、
 山城屋藤兵衛、徳兵衛、
 万次郎、
 宇野吉(益子屋手代)
◯あらすじ等
 
甲州勝沼からブドウを運んできた秀治という若者母親探しが描かれている。
 秀治が子供のころ、生活のために身を売り、家を出てしまった母親を、
 父親与兵衛の遺言に従って、探しあ
てるが・・・。
   「おふくろ、今日の渡しは、富士の初雪が見えるぞ」
   おふくろ、帰ろう。傷が治ったら勝沼に帰ろう。
   秀治は心の中で叫んでいた。
   秀治はおかじを背負って、渡し場に急いだ。  

「海霧」
◯主な登場人物
 土屋禮治郎・多紀・奈加、
 土屋孫右衛門・土屋淳之介(淳堂)
 井沢重三郎
 勝蔵(岡っ引き)、白石源之助(北町奉行所定町廻り同心)
 春田友之助
 おゆい、おくみ、
◯あらすじ等
 八代藩藩士だった土屋禮治郎は、ある事情から不義密通をした妻多紀を成敗し、
 女敵討ちを誓い、井沢重三郎を追って国を出るが、ようやく行方を掴んだものの、
 重三郎は石川島の人足寄せ場送りとなってしまい・・・。
 苦節13年、その重三郎が赦免となって戻ってくる日が決まり、宿願の女敵討ちが
 叶う日が迫ったが、意外な展開となり・・・。

   禮治郎は、不安に震えているおゆいの顔を思い出して足を速めた。
   背を向けた海は、今まさに霧が晴れていくところだった。

 

畠山健二著 「新・本所おけら長屋(三)」

今年7月に図書館に予約していた、畠山健二著、「新・本所おけら長屋(三)」祥伝社文庫)が、ようやく順番が回ってきて先日借り、読み終えた。
累計220万部突破の、畠山健二著の人気時代小説「本所おけら長屋シリーズ」は、全20巻をもって完結、その全巻を読み終えているが、「新・本所おけら長屋シリーズ」は、その続編シリーズである。
本書は、その新シリーズ第三弾の作品であり、「第一話 のほほん」、「第二話 まねごと」、「第三話 おおばけ」の連作短編3篇が収録されている。

前シリーズ「本所おけら長屋シリーズ」は、万蔵、お満が、長崎へ旅立つところで終わっていたが、新シリーズは、その3年後、万造、お満が、長崎から江戸に戻ってくるところから始まっている。
主な登場人物は、前シリーズとほとんど変わらずだが、万蔵、お満が不在の3年間には、おけら長屋や聖庵堂、三祐等で、大小の変化が有る。
前シリーズでは、江戸本所亀沢町の貧乏長屋「おけら長屋」の店子、万造、松吉の「万松コンビ」を筆頭に、左官八五郎・お里夫婦、粋な後家女お染、浪人の島田鉄斎、等々、貧しいくせにお節介焼きで人情に厚い、個性豊かな面々が、次々巻き起こる問題、事件、騒動を笑いと涙で体当たりし、まーるく収めていくという内容だったが、新シリーズは、江戸に戻った万造と松吉が始めた商売?、なんでも屋・「万松屋」を軸にして、おけら長屋の島田鉄斎、お染、八五郎・お里、辰次・お蓮、金太や、栄屋のお栄、同心の伊勢平五郎・・・等々、お馴染みの連中が絡んで、ますます愉快な内容になっている。
演芸の台本執筆や演出等の経歴を持たれる著者畠山健二特有の小気味よい文体、まるで江戸落語、漫才を聞いているようなテンポ良さに引き込まれてしまい、随所で、笑いを堪らえ切れなくなったり、思わず泣かされてしまったりする。
「本所おけら長屋シリーズ」のテーマについて、著者は、「品行が悪くても品性が良い」ことだと述べておられるようだが、「いつも馬鹿やっていながら、決して人を裏切ったり騙したりしない」全ての登場人物達に、読者も気持ちよくなり、人の優しさがジーンと心に沁みてくる時代小説になっている。

 


「第一話 のほほん」
・主な登場人物
 辻祥右衛門(富士照日(ふじてれび))、
 お近(流し目のお近)
 春助、
 久蔵・お梅・亀吉
・あらすじ等
 おけら長屋の空き家に引っ越してきた辻祥右衛門とは何者?、おけら長屋をネタに
 した戯作(げさく)が江戸中で広まり出し・・・、万造が、松吉が、鉄斎が・・・。
   祥右衛門は、溜息をついた。
   「春助さんは私に言いました。千人の人を楽しませるより、一人の人を傷つけ
   たくないと。今はその言葉が胸に沁みます」
   お染は手酌で酒を呑む。

「第二話 まねごと」
・主な登場人物
 木田屋宗右衛門、善助・お比呂、
 お悠、お芹、

 弥五郎、貫太郎、
 旅籠釜屋杉右衛門・お燕(おえん)
・あらまし等
 遡って、前シリーズ最後、長崎へ向かうお満を追った万造が、富士の麓で災難に
 合う物語。お芹婆さんに騙され、さらに、博打(ばくち)で一文無しになった万造、
 三島宿でお満とは再会出来たのだったが、街道一の親分弥五郎と出会い・・・。
 万造ならではの、粋で人情深いおせっかい、笑いと涙で丸く収める・・・。
  「本物よりも奥の深い真似事・・・」
  お満はその言葉を繰り返した。
  「あの狸婆、最後までおれを化かしやがって・・・」
  万造は笑いながら、お芹の位牌を指先で弾いた。

  
「第三話 おおばけ」
・主な登場人物
 津軽甲斐守高宗(黒石藩藩主、貧乏旗本の三男坊黒田三十郎)
 工藤惣二郎(黒石藩江戸家老、鎌田半十郎(黒石藩用人)
 田村真之助(黒石藩側用人見習い)
 磯崎伴内・小絵、

 五十嵐泰造、
 井田掃部守輝義(彦坂藩藩主)、鈴木敬之進、佐藤百輔、
 後藤京全(彦坂藩江戸留守居役)、長谷仲十郎、
 五十嵐泰造、
・あらまし等
 愉快な殿様、黒石藩藩主津軽甲斐守高宗は、気弱な小姓田村真之介を鍛えるため、
 化物屋敷同然?のおけら長屋に、真之助を送り込むのだが・・・・。
 委細を知っている者、知らない者、入り混じったおけら長屋の
住人たちに、あれや
 これや仕掛けられ鍛えられ、思わぬ形で急成長した真之介・・・・、
  
高宗は、膝を打つ。
  「泣き虫の真之介に、こちらが泣かされるとは。のう、鉄斎」
  「大化けしましたな」


 

参考・参照

祥伝社のウェブ・サイト・「新・本所おけら長屋」

 



「新・本所おけら長屋シリーズ」第4弾が発刊されており、早速、予約を入れてきたが、多分また、順番が回ってくるのは、数ヶ月先になるのだろう。

 

藤原緋沙子著 「番神の梅」

図書館から借りていた、藤原緋沙子著 番神の梅(ばんじんのうめ(徳間文庫)を読み終えた。

 


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▢目次
 第一章 ~ 第十六章 
 解説・雨宮由希夫


▢主な登場人物
 渡部鉄之助桑名藩藩士・柏崎陣屋・公事退切)・紀久・鐐之進・八重・慎之介・りん
 おゆき(八重の子守)、お弓(慎之介の子守)、おとき(産婆)
 渡部久太夫(片山成美の弟、鉄之助の養父・叔父)・おまつ(鉄之助の養母
 佐藤代右衛門・もと(紀久の父母)、片山成美(鉄之助の実父・久太夫の兄)
 粂蔵・おくら、弥助、
 竹中連八郎・おみよ・おちか・伝(でん、連八郎の母親、おばさ)
 品川十四郎・登代・紋太郎、栗本作助・美津、
 生田萬・お鎬(おこう)
 お信(おのぶ)・徳治・おるい・羽村
 おいね(柏崎の呉服屋「今井屋」の女房)、おみつ(旅籠「近江屋」の女将)

▢あらまし
 舞台は、江戸時代、天保年間、桑名藩の飛び地(分領地)越後柏崎の陣屋。
 桑名藩の下級藩士渡部鉄之助は、突然、勘定人として、柏崎陣屋赴任を命じられ、
 幼い長男鐐之進を養父母渡部久太夫・おまつに預け、妻紀久と幼子八重と共に
 赴くが・・・。
 海鳴りと吹きすさぶ風、冬は雪に囲まれる僻遠の地柏崎陣屋赴任した者は、
 島流しとも呼ばれ、
二度と桑名に帰れることはないと言われており・・・。
 さらに、清廉潔白四角四面の鉄之助の陣屋暮らしは、着物一枚買う余裕もない程
 困窮を極める。

 夫と子供のため日々の暮らしを守る紀久の心の拠りどころは、日蓮上人ゆかりの
 番神堂に植えた、
桑名から持参した梅の苗木だった。
 この花が咲いたら故郷桑名に帰れる・・・・、そう信じて、ひたむきに生きる紀久
 だったが
・・・・、

 雨宮由希夫氏の解説によると、
 本書「番神の梅」は、桑名藩の下級武士が綴った、「桑名日記」、「柏崎日記」を
 元にして、作者が独自の物語に構築した時代小説。
 天保十年(1839年)に、久松松平家桑名藩の下級武士渡部勝之助が、突如、
 勘定人として、越後の柏崎陣屋に赴任するよう命じられた。その時、すでに三歳の
 長男鐐之助がいたが、養父渡部平太夫と協議し、鐐之助を桑名において赴任。
 桑名と柏崎、遠く離れて暮らすことになった久太夫、鉄之助親子は、それぞれの
 暮らしや家族の養子を、きめ細かく日記に綴り、ほぼ十年間に渡って交換していた
 のだという

 本書の主人公渡部鉄之助は、その渡部勝之助をモデルにしており、実在した人物
 勝之助の人生に沿って造形されている。
 紀久もまた、実在した「きく」をモデルにしている。

 重責と薄給、超多忙な鉄之助が、次第に壊れていく最愛の妻紀久にしてやれる
 ことは、家事育児を担い、労いの言葉の掛けてやるしかない、歯がゆさと切な
 さ・・・、
 貧しくても、「凛として生きよ」と、実父佐藤代左衛門の遺言が届き・・・、 
 梅の木に帰郷の望みを託し、夫とわが子のために・・・、
 ふりかかる試練に耐え、下級武士の妻として懸命に生きた女性紀久の生涯・・。
 何と美しく、凛として、切ない物語である。
 生きることの哀歓漂い、抒情性に溢れた彫りの深い人物造形に定評がある作者の
 秀作の一つだと思う。

 



著者・藤原緋沙子 プロフィール


1947年、高知県生まれ、本名・藤原千津子、
2001年、立命館大学文学部史学科を卒業、
小松左京が主宰する創翔塾で学び、脚本家を経て、
2002年、「隅田川御用帳シリーズ」の第一巻「雁の宿」で小説家デビュー。
同シリーズで、2013年第二回歴史時代小説作家クラブのシリーズ賞を受賞。
人情時代小説の名手として、リアリティあふれる物語空間の創出、
意外性に満ちたストーリー、魅力的な人物造形などが高く評価されている。
文庫書下ろし時代小説で絶大な人気を得る。
主な作品に、「茶筅の旗」「番神の梅」「龍の袖」等、
また代表的なシリーズに、「藍染袴お匙帖」「隅田川御用帳」
「橋廻り同心・平七郎控」「見届け人秋月伊織事件帖」「浄瑠璃長屋春秋記」
「渡り用人片桐弦一郎控」「人情江戸彩時記」「千成屋お吟」
「切り絵図屋清七」「秘め事おたつ」「へんろ宿」等がある。


 

諸田玲子著 「幽恋舟」

図書館から借りていた、諸田玲子著 「幽恋舟(ゆうれんぶね)(新潮社)を読み終えた。

 


読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
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▢目次
 序章
 壱の章 ~ 拾四の章
 終章

▢主な登場人物
 杉崎兵五郎(禄高千七百石の寄合旗本、中川舟番所勤務、47歳)・舳之助・凪江・美帆、
 蜂谷与左衛門(用人)、吉田市之丞(郎党)、宮坂平太郎(郎党)、吉蔵、おうめ、
 たけ(17歳)、つる、弥助、おしげ、
 大島哲之進(ひろのしん、定町廻り同心、兵五郎の親友)・和代・哲太郎・千瀬、
 山口代出児(たつじ、山口禅二)・山口ふじ、かめ、
 富田屋治平・美和、鈴木松奥(まつおう)
 金窪文平(旗本大久保勝五郎の家臣、山口ふじの兄)
 堀石見守親義(飯田藩藩主)、堀大和守親寚、柳田東助(飯田藩吟味方)
 若山若年寄、安富主計(飯田藩国家老)
 鈴尾御典医の妻)
 浅井左太夫大目付、兵五郎の猪瀬道場仲間)


▢あらまし
 太平の世が続き、舟改めの手間は省かれ退屈極まりない任務になっていた中川
 舟番所で舟の出入りを監視していた兵五郎、
 ある日の早暁、航行の解禁時間の明六ツまではまだ間がある時刻に、血の気の
 失せた横顔が息を呑むほど美しい若い娘たけと侍女つるを乗せた古ぼけた平田舟
 が、忽然と幽霊舟のように現れ、中川から曲りこみ小名木川を西に向かって漕ぎ
 進んでくるのを見つけたが・・・、物の怪か?
 待ったをかけ素性を問いたださねばと思ったものの、膝頭がふるえ、声が出ない。 
 もたもたしているうちに、舟は遠ざかっていった。
 翌日、再び現れた舟を、兵五郎は追跡、身投げをしようとするたけを助け上げ、
 屋敷に連れてきて保護するが・・、
 狂気の血筋におびえるたけと付き添うつる、そして不審な事件が・・・、
 それまで、先が見えたような人生に朽ちかけていた兵五郎だったが、訳有りの
 たけを救おうと奔走することで蘇り、自分の娘美帆と同じ程に若いたけに、強く
 心惹かれていく。
 さらに、三十年来の親友であり、町奉行所の定廻り同心・大島哲之進と共に、
 たけに関わる、大名家、飯田藩堀家のお家騒動にからんだ事件の真相を明らかに
 していくはめになる。
 黒船来航直前、武家の意識も変わりつつある時代を背景に描かれた、新感覚の
 時代小説であり、大名家の藩内騒動が絡む、複雑、ミステリアスな事件も盛り
 込まれており、撮り物シーン(斬り合い場面)も有り、さらには、意外な展開、
 結末を迎えるという筋立てになっており、最後まで飽きさせない作品だと思う。
   
舟はつるとかめを乗せたまま、波間へ沈んでゆく。つるの断末魔の叫びと、
   かめの楽し気な笑い声が、尾を引くように流れて消えた。
   兵五郎は泳いだ。息つく間もなく泳いだ。渾身の力を振りしぼって泳いだ。
   「・・・・たけ!・・」

 

青山文平著 「つまをめとらば」

図書館から借りていた、青山文平著 「つまをめとらば」文藝春秋)を、読み終えた。
本書は、2016年の「第154回直木三十五賞受賞」作品で、江戸時代後期を時代背景とし、登場人物がそれぞれ異なる、「ひともうらやむ」「つゆかせぎ」「乳付」「ひとな夏」「逢対」「つまをめとらば」の短編時代小説6
篇が収録されている。

 


読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、
その都度、ブログ・カテゴリー 「読書備忘録」に 書き留め置くことにしている。


 

「ひともうらやむ」

▢主な登場人物
 長倉庄平(本条藩馬廻り組番士)・康江、
 長倉克巳(本条藩御馬廻り組番士)・長倉恒蔵(本条藩家老)
 世津、浅沼一斎 
 内藤啓次郎(組頭)、川俣源右衛門(番頭)
▢あらまし

 ひともうらやむような男女、克己、世津は、結婚したものの、うまくいかず、
 克巳は、世津から一方的に離縁を申し出され、親戚であり、同い歳の庄平に相談
 したのだったが・・・。
 世津が駆け込み寺慶泉寺に入寺、克巳は、世津を追って押し入り、世津を殺害し
 切腹してしまう。
 自責の念と体調不良から庄平は致仕、浪人となり、ぱっとしない田舎者の妻康江と
 共に江戸に出るが、意外や意外、康江が大活躍。
 
 「いいねえ、庄さんのおかみさんはとびっきりの別嬪さんで」
  いまや、職人仲間となった裏店の男たちもしばしば冷やかす。
  「人も羨むってやつだ。心配になりゃしねいかい」
  「いや、そんな」
  などと、かわしながらも、時折、世津に似てきたと思うこともある。

 

「つゆかせぎ」

▢主な登場人物
 侍(主人公・旗本大久保家の家臣)
 朋(とも・竹亭化月)
 吉松(地本問屋成宮誠六の番頭)
 勘右衛門、惣兵衛、銀、
▢あらまし
 俳諧が趣味の主人公の侍に嫁いできた朋が急死、その直後、朋が実は人気戯作
 作家であったことが分かるところから、物語が始まっている。

 主人公の侍は、常々、朋から、侍をやめて俳諧師になるべきだ、と言われていた
 こともあり、
戯作作品に何が書いてあるか知るのが怖くもあり、動揺する。
 主人公の侍は、もともと、業俳(俳諧を生業にする者)になる気がなく、遊俳(別
 に本業が有る俳諧師)であり続けることを望んでおり、大久保家の勝手掛用心の
 仕事を着々とこなしているが、知行地の寄合に向かった途中旅籠の主人に、「つゆ
 かぜぎ」の女
を引き合わせられる。「種がほしい」、という。
  
そうだな、大事にせねばな、と私は男親のように言って腹から笑った。
  そして西脇村へ行くのも「、今回が最後になるかもしれないと思い、寄合を済ま
  せて江戸に戻ったら、(朋の人気戯作)「七場所異聞」を読んでみようと思った。

 

「乳付」

▢主な登場人物
 神尾信明(旗本、両番家筋)・民恵・新太郎・隆子、
 瀬紀、
 島崎彦四郎(民恵の父親、御家人、徒目付)

▢あらまし
 御家人島崎彦四郎の娘で漢詩が得意な民恵は、学んだ西湖吟社の仲間だった旗本
 神尾信明に見初められ、身分違いの旗本の嫁になるが、なんとなく釈然とせず。
 第1子新太郎を出産しても、姑隆子が差配、乳母瀬紀は、若くて美人。
 疑念と悋気に苛まれる。重苦しい物語が、解き放たれるのは、釣りを趣味にして
 いる民恵の父親彦四郎のアドバイスだった。
 「信明殿を支えられるのは、神尾様の用心でも母君でもなく、おまえだからだ」
 
 「あの、わたくし、悋気いたしました」
  「悋気。ですか」
  信明はまた茶を含み、遠くを見やってから言った。
  「人は悋気をするものです」
  そして、ひとつ息をついてつづけた。
  「そう言えば、明日は二十六夜待ちでしたね」


「ひと夏」

▢主な登場人物
 高林啓吾・高林雅之・理津
 三枝善右衛門(柳原藩中老)、半原嘉平(柳原藩大番組二番組組頭)
 伊能征次郎、勘兵衛(名主)
 喜介(干鰯屋)・タネ、信介、新吉、
▢あらまし
 柳原藩馬廻り役高林雅之(28歳)の弟(部屋住み)で、う
だつのあがらなかった
 高林啓吾(22歳)に、中老三枝善右衛門から、突然お召出(おめしで)が有り、
 幕府御領地の真ん中にある飛び領地杉坂村の支配所勤務を命じられるが・・・。
 過去、赴任して
二年も勤めると気がふれるとされる難しい任地。
 果たして・・・。
 押し入り立て籠もり事件発生、直心影流岡崎十蔵と奥山念流啓吾の決闘シーンが
 見事に描かれている。
 
 「先生、剣術を教えておくれ」
  手習いが終わると新吉と信介は必ずそう言ってまつわりついてくる。
  「あんた、いっそウチへ婿に入ればいいんだ」
  干鰯屋の喜介は、村民の目が届かなくなると啓吾に言う。
  村は結局、なにも変わっていない。
  けれど、村を見る自分の目は、このひと夏で、 
随分と変わった気がする。
  杉坂村は、もうあき。実りの季節だ。

 

「逢対」

▢主な登場人物万
 竹内泰郎
 里(煮売り屋)・四万、
 北島義人
 長坂備後守秀俊若年寄
▢あらまし
 旗本であっても、番入り出来ない、御家人より低い家禄の竹内家、一人暮らしの
 泰郎(28歳)は、独学で算学を修め、細々と算学塾で生計を立てていたが、近くの
 煮売り屋の女、里(24歳)と深い仲になってしまった。
 旗本と町人の娘、身分違い。この先どうする?、
 無駄とも思える「逢対」することも武家奉公と心得ている、幼馴染北島義人に
 ならって、「逢対」をすることにしたが・・・、
 「逢対(あいたい)」とは、幕府の権力有る人物に、出仕を求めて日参すること。
 (就職活動)。
 「逢対」に丁寧に応じているという若年寄長坂備後守秀俊から呼び出された泰郎、
 出仕の条件を示されて、愕然・・・。
 潔く、その権利を義人に譲ってしまい・・・。
 
 算学一本に絞って夫婦になりたいと告げる泰郎に、
  「わたしは、あなたのお嫁さんになりたいなんてちっとも、思わない、って
  言った
わよね」
  「ああ、言った」
  妾暮らしなんぞより、本妻暮らしのほうがずっといいことを、しっかり分から
  せて
やるつもりだ。

 

「つまをめとらば」

▢主な登場人物
 深堀省吾・幾・辰三・豊・紀江、
 山脇貞次郎 
 佐世、
 花屋久次郎(花久・菅裏)
▢あらまし
 三番目の妻紀江と離縁し、借金を抱えたまま隠居、金にならない川柳から金になる
 戯作(げさく)作りに変えて、暮らしていた省吾が、上野の山で幼馴染の貞次郎と
 出会い、貞次郎が省吾の家作(借家)に引っ越してくることになった。
 お互いに訳有りの身でありながら、お互いのことよく知らず分からずだったが、
 諦めが良く、揉め事が嫌い、穏やかなのが好き、事なかれ主義、争いは避けて、
 何事にも退いてしまう性癖の省吾、
 男二人、お互いに認め合って、仲良く暮らし始める。
 しかし、かつて省吾の家の下女だった佐世が、堂々とした農婦になり、味噌売りと
 なって現れると
、貞次郎が佐世と暮らすと言って、省吾から離れていく。
 
 「ここで女と暮らしてもよいかと思ったがな。ここだと未練が残る」
  「なんの未練だ」
  「一度は、爺さん二人でずっと暮らしていこうと思った未練だ」
  歳を重ねるにつれて、分かったことも増えたが、分からないことも増えた。
  分かっていたことも、分からなくなったりする。
  「済まんな」
  ぽつりと貞次郎が言う。
  「なに、済まんことなどあるものか」
  「やっぱり、省ちゃんは餓鬼大将で、俺は使いっ走りだ」
  んなことは、ない。ぜんぜんない。