たけじいの残日雑記懐古控

「日残リテ昏ルルニ未ダ遠シ」・日記風備忘雑記懐古録

諸田玲子著 「幽恋舟」

図書館から借りていた、諸田玲子著 「幽恋舟(ゆうれんぶね)(新潮社)を読み終えた。

 


読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、
その都度、ブログ・カテゴリー 「読書備忘録」に 書き留め置くことにしている。


▢目次
 序章
 壱の章 ~ 拾四の章
 終章

▢主な登場人物
 杉崎兵五郎(禄高千七百石の寄合旗本、中川舟番所勤務、47歳)・舳之助・凪江・美帆、
 蜂谷与左衛門(用人)、吉田市之丞(郎党)、宮坂平太郎(郎党)、吉蔵、おうめ、
 たけ(17歳)、つる、弥助、おしげ、
 大島哲之進(ひろのしん、定町廻り同心、兵五郎の親友)・和代・哲太郎・千瀬、
 山口代出児(たつじ、山口禅二)・山口ふじ、かめ、
 富田屋治平・美和、鈴木松奥(まつおう)
 金窪文平(旗本大久保勝五郎の家臣、山口ふじの兄)
 堀石見守親義(飯田藩藩主)、堀大和守親寚、柳田東助(飯田藩吟味方)
 若山若年寄、安富主計(飯田藩国家老)
 鈴尾御典医の妻)
 浅井左太夫大目付、兵五郎の猪瀬道場仲間)


▢あらまし
 太平の世が続き、舟改めの手間は省かれ退屈極まりない任務になっていた中川
 舟番所で舟の出入りを監視していた兵五郎、
 ある日の早暁、航行の解禁時間の明六ツまではまだ間がある時刻に、血の気の
 失せた横顔が息を呑むほど美しい若い娘たけと侍女つるを乗せた古ぼけた平田舟
 が、忽然と幽霊舟のように現れ、中川から曲りこみ小名木川を西に向かって漕ぎ
 進んでくるのを見つけたが・・・、物の怪か?
 待ったをかけ素性を問いたださねばと思ったものの、膝頭がふるえ、声が出ない。 
 もたもたしているうちに、舟は遠ざかっていった。
 翌日、再び現れた舟を、兵五郎は追跡、身投げをしようとするたけを助け上げ、
 屋敷に連れてきて保護するが・・、
 狂気の血筋におびえるたけと付き添うつる、そして不審な事件が・・・、
 それまで、先が見えたような人生に朽ちかけていた兵五郎だったが、訳有りの
 たけを救おうと奔走することで蘇り、自分の娘美帆と同じ程に若いたけに、強く
 心惹かれていく。
 さらに、三十年来の親友であり、町奉行所の定廻り同心・大島哲之進と共に、
 たけに関わる、大名家、飯田藩堀家のお家騒動にからんだ事件の真相を明らかに
 していくはめになる。
 黒船来航直前、武家の意識も変わりつつある時代を背景に描かれた、新感覚の
 時代小説であり、大名家の藩内騒動が絡む、複雑、ミステリアスな事件も盛り
 込まれており、撮り物シーン(斬り合い場面)も有り、さらには、意外な展開、
 結末を迎えるという筋立てになっており、最後まで飽きさせない作品だと思う。
   
舟はつるとかめを乗せたまま、波間へ沈んでゆく。つるの断末魔の叫びと、
   かめの楽し気な笑い声が、尾を引くように流れて消えた。
   兵五郎は泳いだ。息つく間もなく泳いだ。渾身の力を振りしぼって泳いだ。
   「・・・・たけ!・・」

 

青山文平著 「つまをめとらば」

図書館から借りていた、青山文平著 「つまをめとらば」文藝春秋)を、読み終えた。
本書は、2016年の「第154回直木三十五賞受賞」作品で、江戸時代後期を時代背景とし、登場人物がそれぞれ異なる、「ひともうらやむ」「つゆかせぎ」「乳付」「ひとな夏」「逢対」「つまをめとらば」の短編時代小説6
篇が収録されている。

 


読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、
その都度、ブログ・カテゴリー 「読書備忘録」に 書き留め置くことにしている。


 

「ひともうらやむ」

▢主な登場人物
 長倉庄平(本条藩馬廻り組番士)・康江、
 長倉克巳(本条藩御馬廻り組番士)・長倉恒蔵(本条藩家老)
 世津、浅沼一斎 
 内藤啓次郎(組頭)、川俣源右衛門(番頭)
▢あらまし

 ひともうらやむような男女、克己、世津は、結婚したものの、うまくいかず、
 克巳は、世津から一方的に離縁を申し出され、親戚であり、同い歳の庄平に相談
 したのだったが・・・。
 世津が駆け込み寺慶泉寺に入寺、克巳は、世津を追って押し入り、世津を殺害し
 切腹してしまう。
 自責の念と体調不良から庄平は致仕、浪人となり、ぱっとしない田舎者の妻康江と
 共に江戸に出るが、意外や意外、康江が大活躍。
 
 「いいねえ、庄さんのおかみさんはとびっきりの別嬪さんで」
  いまや、職人仲間となった裏店の男たちもしばしば冷やかす。
  「人も羨むってやつだ。心配になりゃしねいかい」
  「いや、そんな」
  などと、かわしながらも、時折、世津に似てきたと思うこともある。

 

「つゆかせぎ」

▢主な登場人物
 侍(主人公・旗本大久保家の家臣)
 朋(とも・竹亭化月)
 吉松(地本問屋成宮誠六の番頭)
 勘右衛門、惣兵衛、銀、
▢あらまし
 俳諧が趣味の主人公の侍に嫁いできた朋が急死、その直後、朋が実は人気戯作
 作家であったことが分かるところから、物語が始まっている。

 主人公の侍は、常々、朋から、侍をやめて俳諧師になるべきだ、と言われていた
 こともあり、
戯作作品に何が書いてあるか知るのが怖くもあり、動揺する。
 主人公の侍は、もともと、業俳(俳諧を生業にする者)になる気がなく、遊俳(別
 に本業が有る俳諧師)であり続けることを望んでおり、大久保家の勝手掛用心の
 仕事を着々とこなしているが、知行地の寄合に向かった途中旅籠の主人に、「つゆ
 かぜぎ」の女
を引き合わせられる。「種がほしい」、という。
  
そうだな、大事にせねばな、と私は男親のように言って腹から笑った。
  そして西脇村へ行くのも「、今回が最後になるかもしれないと思い、寄合を済ま
  せて江戸に戻ったら、(朋の人気戯作)「七場所異聞」を読んでみようと思った。

 

「乳付」

▢主な登場人物
 神尾信明(旗本、両番家筋)・民恵・新太郎・隆子、
 瀬紀、
 島崎彦四郎(民恵の父親、御家人、徒目付)

▢あらまし
 御家人島崎彦四郎の娘で漢詩が得意な民恵は、学んだ西湖吟社の仲間だった旗本
 神尾信明に見初められ、身分違いの旗本の嫁になるが、なんとなく釈然とせず。
 第1子新太郎を出産しても、姑隆子が差配、乳母瀬紀は、若くて美人。
 疑念と悋気に苛まれる。重苦しい物語が、解き放たれるのは、釣りを趣味にして
 いる民恵の父親彦四郎のアドバイスだった。
 「信明殿を支えられるのは、神尾様の用心でも母君でもなく、おまえだからだ」
 
 「あの、わたくし、悋気いたしました」
  「悋気。ですか」
  信明はまた茶を含み、遠くを見やってから言った。
  「人は悋気をするものです」
  そして、ひとつ息をついてつづけた。
  「そう言えば、明日は二十六夜待ちでしたね」


「ひと夏」

▢主な登場人物
 高林啓吾・高林雅之・理津
 三枝善右衛門(柳原藩中老)、半原嘉平(柳原藩大番組二番組組頭)
 伊能征次郎、勘兵衛(名主)
 喜介(干鰯屋)・タネ、信介、新吉、
▢あらまし
 柳原藩馬廻り役高林雅之(28歳)の弟(部屋住み)で、う
だつのあがらなかった
 高林啓吾(22歳)に、中老三枝善右衛門から、突然お召出(おめしで)が有り、
 幕府御領地の真ん中にある飛び領地杉坂村の支配所勤務を命じられるが・・・。
 過去、赴任して
二年も勤めると気がふれるとされる難しい任地。
 果たして・・・。
 押し入り立て籠もり事件発生、直心影流岡崎十蔵と奥山念流啓吾の決闘シーンが
 見事に描かれている。
 
 「先生、剣術を教えておくれ」
  手習いが終わると新吉と信介は必ずそう言ってまつわりついてくる。
  「あんた、いっそウチへ婿に入ればいいんだ」
  干鰯屋の喜介は、村民の目が届かなくなると啓吾に言う。
  村は結局、なにも変わっていない。
  けれど、村を見る自分の目は、このひと夏で、 
随分と変わった気がする。
  杉坂村は、もうあき。実りの季節だ。

 

「逢対」

▢主な登場人物万
 竹内泰郎
 里(煮売り屋)・四万、
 北島義人
 長坂備後守秀俊若年寄
▢あらまし
 旗本であっても、番入り出来ない、御家人より低い家禄の竹内家、一人暮らしの
 泰郎(28歳)は、独学で算学を修め、細々と算学塾で生計を立てていたが、近くの
 煮売り屋の女、里(24歳)と深い仲になってしまった。
 旗本と町人の娘、身分違い。この先どうする?、
 無駄とも思える「逢対」することも武家奉公と心得ている、幼馴染北島義人に
 ならって、「逢対」をすることにしたが・・・、
 「逢対(あいたい)」とは、幕府の権力有る人物に、出仕を求めて日参すること。
 (就職活動)。
 「逢対」に丁寧に応じているという若年寄長坂備後守秀俊から呼び出された泰郎、
 出仕の条件を示されて、愕然・・・。
 潔く、その権利を義人に譲ってしまい・・・。
 
 算学一本に絞って夫婦になりたいと告げる泰郎に、
  「わたしは、あなたのお嫁さんになりたいなんてちっとも、思わない、って
  言った
わよね」
  「ああ、言った」
  妾暮らしなんぞより、本妻暮らしのほうがずっといいことを、しっかり分から
  せて
やるつもりだ。

 

「つまをめとらば」

▢主な登場人物
 深堀省吾・幾・辰三・豊・紀江、
 山脇貞次郎 
 佐世、
 花屋久次郎(花久・菅裏)
▢あらまし
 三番目の妻紀江と離縁し、借金を抱えたまま隠居、金にならない川柳から金になる
 戯作(げさく)作りに変えて、暮らしていた省吾が、上野の山で幼馴染の貞次郎と
 出会い、貞次郎が省吾の家作(借家)に引っ越してくることになった。
 お互いに訳有りの身でありながら、お互いのことよく知らず分からずだったが、
 諦めが良く、揉め事が嫌い、穏やかなのが好き、事なかれ主義、争いは避けて、
 何事にも退いてしまう性癖の省吾、
 男二人、お互いに認め合って、仲良く暮らし始める。
 しかし、かつて省吾の家の下女だった佐世が、堂々とした農婦になり、味噌売りと
 なって現れると
、貞次郎が佐世と暮らすと言って、省吾から離れていく。
 
 「ここで女と暮らしてもよいかと思ったがな。ここだと未練が残る」
  「なんの未練だ」
  「一度は、爺さん二人でずっと暮らしていこうと思った未練だ」
  歳を重ねるにつれて、分かったことも増えたが、分からないことも増えた。
  分かっていたことも、分からなくなったりする。
  「済まんな」
  ぽつりと貞次郎が言う。
  「なに、済まんことなどあるものか」
  「やっぱり、省ちゃんは餓鬼大将で、俺は使いっ走りだ」
  んなことは、ない。ぜんぜんない。
 

諸田玲子著 「其の一日」

図書館から借りていた、諸田玲子著 「其の一日(そのいちにち)講談社文庫)を、読み終えた。
本書は、第24回吉川英治文学新人賞を受賞した作品で、江戸期に懸命に生きた人々の運命を変えた「ある一日」を共通のテーマにして描いた連作短編時代小説、「立つ鳥」「蛙(かわず)」「小の虫」「釜中(ふちゅう)の魚」の4篇が収録されている。

 


読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、
その都度、ブログ・カテゴリー 「読書備忘録」に 書き留め置くことにしている。


 

「立つ鳥」

▢主な登場人物
 彦次郎勘定奉行・荻原重秀)・登勢、
 稲葉市右衛門、大木左馬之助、吉蔵、

 勘解由(新井君美・のちの新井白石
 井伊掃部頭直該(いいかもんのかみなおもり・大老
 柳沢吉明、

 山田吉右衛門佐渡の豪商)
▢あらまし
 幕府の財政窮乏対策として、側用人柳沢吉明と共に、通貨改鋳改悪を断行し、
 世の中の混乱を招いたとし、勘解由に弾劾され、勘定奉行罷免が決する一日の、
 彦次郎が思いを巡らす長い1日を描いている。
  自分は、汗をぬぐい息をはずませ、脇見もせずに真昼の道を歩いて来たのだ。
  まぶたの裏に残光があった。心残りは、もうない。


「蛙」

▢主な登場人物
 藤枝外記教行(ふじえだげきのりなり)・弥津・安十郎・寅之助・
 本光院(淑子)富江、おこん、
 尾崎郡兵衛(用人)、辻団右衛門、
 綾衣(あやぎぬ)
 山田肥後守利壽(としよし・弥津の父)
 高野又四郎
 徳山甲斐守貞明(教行の父)
▢あらまし
  「殿が逝去されました」・・・・、弥津は、絶句した。なにゆえ、夫が腹を切る
  のか?、そこには、弥津だけが知らされなかった、重大な事実が有ったのだが、
  弥津にとっては、事実が次々に明らかになる、長い1日となる。 
   夫も長い歳月、苦悶の日々を過ごした。叶わぬ恋のために。
   胸の中はしんとしていた。もはや怒りも悲しみも嫉妬もなく、寂とした
   虚しさがあるばかりだ。弥津は手早く身支度をした。


「小の虫」

▢主な登場人物
 倉橋寿一郎・倉橋寿平(寿一郎の父・恋川春町・倉橋勝政(寿一郎の祖父)・祖母、

 おたみ(寿一郎の生母、端布屋)、
 外木長右衛門、神尾佐代、
 松平信義駿河国小島藩藩主)
 松平定信(老中)、
 鱗形屋孫兵衛(小間物屋)、喜三二(秋田久保田藩佐竹家留守居役・平沢常富)
▢あらまし
 出掛けた先、伝通院の門前で、「お人違いでしたら、ご勘弁なすっておくんなさい」、 
 偶然に出会った孫兵衛から、生母が生きていることを知り、さらには、父寿平、
 祖父勝政、早世に関わる事実が次々と明るみになっていき、寿一郎にとっては、
 それまで閉ざされていた秘密の蓋が次々開かれる長い1日となる。
  家中の者たちの声なき声に追いつめられ、不本意ながらも主家のために死んで
  いった父、苦悶のすえに我が子を切り捨て、忠義という一分を貫くことで、
  むしろ飄然と死に臨んだ祖父、二人の死にざまが胸に迫る。
  いや、それを言うなら、主家のため家名のために毅然と男たちを見送った
  祖母の胸中こそ、いかばかりだったか。

  「お祖母さま、死んではなりませぬ」


「釜中の魚」

▢主な登場人物
 可寿江(かずえ・村山たか)、帯刀(常太郎)
 井伊掃部頭直弼大老、長野義信(主馬→主膳)井伊直亮
▢あらまし
 安政七年三月三日、風雪、悪天候の日、井伊家の密偵・可寿江は、水戸浪士の
 不穏な動きを察知し、主君であり、かつて恋人でもあった直弼に、必死の思いで
 通報しようと試みるが・・・。
  行列は杵築藩邸の門前に差しかかろうとしていた。
  「ほんまに、心が洗われるようやなあ」
  整然と遠ざかってゆく行列をまぶたに焼き付ける。
  と、そのときだった。銃声が響いた。時ならぬ雁の声かと、
  可寿江は空を見上げる。

  雪片がきらきらと舞い落ちて、大きくみはった目に音もなく吸い込まれた。
 「桜田門外の変」を題材にした短編。

解説 阿刀田高


諸田玲子 オフィシャル・ウエブサイト
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こちら


 

諸田玲子著 「誰そ彼れ心中」

図書館から借りていた、諸田玲子著 「誰れ彼れ心中(たそがれしんじゅう)新潮文庫)を読み終えた。

 


読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、
その都度、ブログ・カテゴリー 「読書備忘録」に 書き留め置くことにしている。


▢目次
 (1)~(30)
 解説 宇江佐真理

▢主な登場人物
 向坂(こうさか)宗太郎・瑞枝・義興(よしおき)・須磨・初子・尚子、
 林源太郎、小十郎、おはる、お峰、おすぎ、
 小栗右近、
 佐伯弥之助・庄左衛門・多美、繁蔵、
 とめ、たき、
 大島哲之進・和代・美津、
 風間九郎左衛門


▢あらまし
主人公は、禄高百俵の御家人の佐伯家から、禄高四百俵の旗本向坂家に嫁いできて4年目になる瑞枝(21歳)。
瑞枝は、ある時、下男部屋に住む小者の小十郎(18歳)から、「殿様が、最近、妙だ。殿様でないような・・・」と言われるところから、物語が始まっている。
瑞枝の夫である宗太郎は、家督相続し、書院番を務めるようになってから、急に寡黙になり、二ヵ月ほど書見に励み、瑞枝を抱くことがなかった。
夫は別人に変わったのだろうか?、疑念が湧くとともに、身分違いの小十郎に不思議なときめきを覚え始めた瑞枝。
からたちの花を手折ろうとして棘に刺され、指先から地を流す瑞枝に、小十郎が声をかけるシーンは、危険を内包した恋の芽生えを予感させるのに十分な描写だ。
物語は終始、瑞枝が、夫宗太郎が何者なのかを追い求めていく筋立てになっており、それが、次第に
向坂家の秘密を知ることになり、四面楚歌に追い込まれる。
同時に、瑞枝の心は無気味な宗太郎から離れ、小十郎へと傾斜してゆく過程を描くことともなっている。
瑞枝は、常に誰かに
監視される立場となり、疑念、憶測がさらに深まっていく。
明るく楽しい時代小説とは異なり、ミステリー系の作品。
最後の最後、表題「誰れ彼れ心中」の通り、瑞枝と小十郎は、心中することになるが、ラストまで、興味を逸らさない作品である。
「解説」で、宇江佐真理氏が著述しておられるが、本作品中には、「からたち」「檜扇」「藤」「紫陽花」「石楠花」「都草」「木槿」「弟切草」「秋海棠」「吉祥草」「曼殊沙華」等、草花の名が、いくつも出てきて、物語の季節の移り変わりを効果的に表現しており、
悲しくも残酷な物語の救いとなっている。
途中から登場する、北町奉行所定町廻り同心大島哲之進が、この物語形成の大きな存在、準主役?になっていることも、最後に分かる。

 

葉室麟著 「神剣・人斬り彦斎」

図書館から借りていた、葉室麟著、「神剣・人斬り彦斎」(しんけん・ひときりげんさい)」(角川春樹事務所)を、読み終えた。
本書は、幕末から明治時代初期にかけての尊王攘夷派の一人で、「人斬り彦斎」等と呼ばれた、実在した人物、河上彦斎(かわかみげんさい)の強烈な生き様を描いた長編時代小説だった。

 


読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を
繰り返さないためにも、

その都度、備忘録として、
ブログ・カテゴリー「読書記」に、書き留め置くことにしている。


▢目次
 (一)~(三十)

▢主な登場人物
 河上彦斎(人斬り彦斎、高田源兵衛)・てい・彦太郎・和歌、
 宮部鼎蔵林桜園、由依(ゆい)、大野鉄兵衛(太田黒伴雄)、大楽源太郎
 吉田寅次郎吉田松陰)、高杉晋作大村益次郎桂小五郎木戸孝允)、
 佐久間象山・お順・佐久間恪次郎(三浦啓之助
 勝海舟
 近藤勇土方歳三沖田総司永倉新八伊東甲子太郎
 西郷吉之助(西郷隆盛)、大久保一蔵(大久保利通)、中村半次郎(人斬り半次郎)、
 三条実美

▢あらすじ等
 開国・佐幕派尊王攘夷派、激動する幕末期、肥後国熊本藩の下級藩士小森貞助・
 和歌の次男として生まれ、同藩の下級藩士河上源兵衛の養子になり、名前も、彦次郎
 から彦斎と改め、16歳で、藩主邸の茶坊主として召し抱えられた河上彦斎が、国学
 者林桜園や、兵法者宮部鼎蔵に学び、尊王攘夷の思想を固めて行き、小柄で女人と見
 まがう美貌の持ち主ながら、神速の抜刀術を誇り、尊皇攘夷を決行するため、血なま
 ぐさい天誅行為に手を染めていく過程と生き様が描かれている。
 「人斬り彦斎」と怖れられた彦斎、最後の最後まで、攘夷の思想を貫き、新政府の方
 針にも従わず、明治4年、満38歳の若さで、斬首刑となった彦斎、
 何のための人斬りであったのか・・・。
 死すとも志は捨て申さぬ。
 君が為死ぬる骸に草むさば赤き心の花や咲くらん

 

葉室麟著 「月神」

図書館から借りていた、葉室麟著、月神(げっしん)角川春樹事務所)を読み終えた。
本書は、前半は、幕末に生きた福岡藩の志士月形洗蔵を描いた「月の章」、後半は、その甥の月形潔を描いた「神の章」の構成になっている。激動の幕末から明治維新後に掛けて実在した二人の人物の人生を克明に追いかけ、二人が追った見果てぬ夢に光を当てて描いた、魂を揺さぶられる長編時代小説だった。

▢目次
 月の章 (一)~(七)
 神の章 (一)~(八)

▢主な登場人物
 月形洗蔵福岡藩藩士
・梅子
 黒田長博福岡藩藩主)
 中村円太、加藤司書、筑紫衛、野村望東尼、
 高杉晋作中岡慎太郎、西郷吉之介(隆盛)

 三条実美
 月形潔(元福岡藩藩士・磯・梓・満、
 海賀直常(元秋月藩藩士
 レコンテ、
 杉村義衛(元新撰組2番隊長永倉新八
 五寸釘の寅吉、

▢あらすじ等
 明治13年、福岡藩出身の内務省書記官月形潔は、北海道に集治監(監獄)を建設   
 するため横浜を発つが、その旅の途中、維新直前に、福岡藩尊攘派として立ち上が
 り、無念にも、藩主黒田長博に疎まれ、刑死した従兄弟月形洗蔵のことを想うところ
 から、物語が始まる。
 月の章では、開国、尊攘で揺れ動く幕末、福岡藩にあって、藩主、因循派と、月形洗
 蔵等を中心とした尊攘派の激しい対立、攻防が描かれている。

 神の章では、時は過ぎ、新政府の命令によって動いている月形潔、
 「洗蔵さんは、今の私を見たら、どう思われるだろうか・・・・」
 激動の幕末から明治維新後にかけて、国を思い、信念をかけた、月形洗蔵、月形潔、  
 2人の生き様が見事に描かれている。
   時代を先導する月神にならなくてはならない。
   夜明けを導く月にならねばならない。
   磯がやさしく笑みを浮かべて、
   「木々の根は、地中に隠れて見えませんが、根が無ければ幹や枝は伸びず、
   葉が繁ることも、花も咲きません。あなたは根の仕事をしたのだ、と
   私は思っております」
   根の仕事という言葉を潔は黙って聞いた。

葉室麟著 「星と龍」

図書館から借りていた、葉室麟著、「星と龍」朝日新聞出版 )を読み終えた。
本書は、2017年4月14日~2017年11月24日まで、「週間朝日」に連載された長編小説著であるが、その2017年初め頃には、すでに発病されていて、2017年12月23日に死去された著者葉室麟の最後の長編時代小説になっている。
本書は、「未完」となっており、もし著者が書き続けて、ストーリーを完了させていたならば、「星と龍」という表題からして、「星」=後醍醐天皇と「龍」=楠木正成のその後の生き様とその死まで描き切ったのではないかと想像出来る作品である。


 

▢目次
 (一)~(三十一)
 解説 阿部龍太郎

▢主な登場人物
 楠木正成(くすのきまさしげ、多門丸、多門兵衛、夢兵衛)
・久子、
 楠木正季(くすのきまさすえ)、楠木正遠入道(くすのきまさとおうにゅうどう)
 鬼灯(ほおずき)
 夢窓疎石(むそうそせき)、無風、
 赤松円心(次郎、則村)、名和伯耆長年、宇都宮公綱(うつのみやきんつな)
 北条高時長崎高資
 後醍醐天皇、阿部廉子、大塔宮護良親王(尊雲)日野俊基
 足利尊氏(足利又太郎、足利高氏高師直(こうのもろなお)新田義貞
 鬼若、鈴虫、
 岳飛(がくひ)、秦檜(しんかい)、高宋南宋皇帝)

▢あらすじ等
 悪党と呼ばれる一族に生まれた楠木正成の信条は、「正義」。近隣の諸将を討伐した
 正成は、後醍醐天皇の信頼を得ていくが、自ら理想とする世の中と現実との隔たりに
 困惑。 
   正成たちが茶室に入ると夢窓は清雅な佇まいで茶を点てながら、
   「さて、楠木殿は、帝と足利が争えばいずれにつかれる」と訊いた。
   (未完)

 で終わっている。