たけじいの残日雑記懐古控

「日残リテ昏ルルニ未ダ遠シ」・日記風備忘雑記懐古録

あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝む



百人一首」で「秋」を詠んだ歌

あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の
長々し夜を ひとりかも寝む

出典
拾遺集(巻十三)

歌番号

作者
柿本人麻呂

歌意
山鳥の垂れ下がった尾のように
長い長いこの秋の夜を
私はひとりで寝なければならないのだろうか。
さてもつまらないことよ。

注釈
「あしびきの」は、「山」にかかる枕詞。
山鳥」は、キジ科の鳥で、雄は、尾が長い。
(ネットから拝借画像)

「しだり尾の」は、「しだり尾」は、ながく垂れ下がった尾の意。
「の」は、「・・・のように」の意。
「長々し夜」は、「長々しき夜」とするところを
語調を整えるため、「き」を省略したと考えられる。
「ひとりかも寝む」の「か」は、疑問の係助詞、「も」は、感動を表す。

山鳥」の雄雌は、夜間、谷を隔てて別々に寝ると言われており、
山鳥」という語感からは、その哀れさが響いてくる。
恋しい人を待つ秋の夜長の、
寂しくやるせない情感が伝わってくる歌である。


柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)
持統天皇文武天皇、両朝に仕えた歌人
身分は低かったようだが、
宮廷歌人として数多くの作品を残している。
万葉最盛期の歌風を代表する歌人で、
後世、「歌聖」として崇められている。
三十六歌仙の一人。
万葉時代で三十六歌仙に入っているのは、
大伴家持山部赤人柿本人麻呂の三人だけ。
因みに、
万葉集」では、この歌の作者は、不明となっている。


参照・引用
小町谷照彦著「小倉百人一首」(文英堂)


(つづく)