たけじいの残日雑記懐古控

「日残リテ昏ルルニ未ダ遠シ」・日記風備忘雑記懐古録

藤原緋沙子著 「寒梅」


図書館から借りていた、藤原緋沙子著 「寒梅」廣済堂文庫)を、読み終えた。
本書は、著者の長編時代小説、隅田川御用帳(すみだがわごようちょう)シリーズ」第17弾の作品で、「第一話 寒梅」「第二話 海なり」の、連作短編2篇が収録されている。
隅田川御用帳シリーズ」は、縁切り寺「慶光寺」の御用宿「橘屋」の女主人お登勢おとせに雇われた、元築山藩藩士の浪人塙十四郎(はなわじゅうしろうが、「慶光寺」の寺役人近藤金吾や、橘屋の番頭藤七(とうしち等と共に、縁切りを求めて「橘屋」に駆け込んでくるいろいろな女達の様々な事情を探り、絡み合う悪事や謎を解明、愛憎乱れる 女と男の深い闇を、人情と剣とで見事に解決していく、悲喜こもごもの物語である。


読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、
その都度、備忘録として、ブログ・カテゴリー「読書記」に、書き留め置くことにしている。


「第一話 寒梅」
▢主な登場人物
 小野田平蔵、桑名五郎、
 加島屋宗兵衛(加島恒元)、利助、若松屋
 多七・おみか、
 深井輝馬(楽翁の側近)、
 水野幸忠(秋山藩藩主
 神代縫之助、米山哲之助、梶井軍兵衛(町奉行
 水野義明(秋山藩江戸家老)、長井大輔、
 戸田采女秋山藩国家老)、お真佐(秋山藩前藩主の側室)・松之助、島木虎之助(蔵奉行
 菊田兵庫(目付)・奈緒、玄斎(奥医師)、

▢あらすじ等
 「消息を絶った密偵を捜してほしい」――縁切寺慶光寺の御用宿「橘屋」の用心棒・塙十四郎は、
 楽翁(元筆頭家老松平定信)から密命を受け、元定信の密偵だった小野田平蔵と共に、
 越後に潜入するが、その前に現れたのは、藩政改革が引き金となって欲望渦巻くお家騒動、
 二分された藩の実態、貧困に喘ぐ民百姓の姿だった。
 楽翁が放った密偵桑名五郎は、すでに殺害されており、十四郎、平蔵も、その渦中に
 巻き込まれていく。
 切羽詰まって、放置出来ない立場の十四郎は、藩政を正すために「秘策」に出る。

 終盤、藩主幸忠の大芝居が傑作、
 目付菊田兵庫の娘奈緒との出会い、交情、別れの場面が痛々しい。
   十四郎は、掴んでいた奈緒の肩から手を離した。
   「名残惜しいが帰らねなりませぬ。世話になった」、「・・・・・」、
   奈緒は口を堅く結んで十四郎を見詰めた。
   その双眸から、熱い涙が零れ落ちる。

 
「第二話 海なり」
▢主な登場人物
 深井輝馬、
 伊原太一郎(勘定人)・千代、田中運八郎(郷手代)、市田金之助(代官)、
 多助・おとめ、おふね、宇野助、
 島小八郎・富、
 与田駒之助(勘定人)・美里・仙太郎、
 粂蔵・おくら、
 宗俊、久坂久三、斎太郎、
 与次郎・おつぎ、

▢あらすじ等
 越後秋山藩の事件が落着し、藩主幸忠の使者と小野田平蔵は、それぞれ、老中、楽翁、江戸家老
 水野義明へ、事の次第報告のため、江戸に向かって馬を走らせ、
 十四郎も、1日でも早くお登勢のもとに帰りたい思っているところに、楽翁の側近深井輝馬が
 走り着き、「柏崎に回れ」という、楽翁から新たな密命が伝えられる。

 当時、「柏崎」は、白河藩の飛び領地で、陣屋を置いて管理していたが、領内で金品強奪事件が
 多発、十四郎、輝馬に、事件解決に力を貸すようにとの命だったが・・・。
   ずっとその繰り返しだが、そのたびに海が泣いているように聞こえるのだ。
   ・・・・海なり・・・・、
   これが海なりなのだと、十四郎は感慨深く見詰めていたが、ふと美里の横顔を見た。
   美里は悲しげな顔でじっと海を見詰めていた。
   この人は、今何を考えて見詰めているのだろうか・・・。
   美しい横顔だと思った。
   ・・・・憂いの中に女の決意が窺える。
   お登勢が待っているそれも同じではないか・・・・。
   その姿は、潔いし、愛おしい・・・。


(つづく)