たけじいの残日雑記懐古控

「日残リテ昏ルルニ未ダ遠シ」・日記風備忘雑記懐古録

諸田玲子著 「お鳥見女房」

10月も中旬、天高く、澄み切った青空の日々を期待しているが 当地 このところまたまた 曇や雨、曇時々雨等の日が続いている。
出掛ける気にもならないそんな日には、最近 本を読みながら ウツラ、ウツラ、舟を漕ぐことが多くなっているような気がする。
数年前までは 仕事を続けていたこともあり、とても ゆっくり読書する時間等無し、気持ちの余裕も無かったが やっと ほんの少し読書意欲がわいてきて 近くの図書館に通うようにもなっている。気まぐれな性分とて すぐまた 他の興味関心に 時間と気持ちが奪われることも有りなのだが・・・・。
先日、図書館から借りていた 諸田玲子著 「お鳥見女房」(大活字本)を 読み終えた。

 

諸田玲子著 「お鳥見女房」

第1話 千客万来
第2話 石榴の絵馬、
第3話 恋猫奔る、
第4話 雨小僧、
第5話 幽霊坂の女、
第6話 忍び寄る影、
第7話 大鷹狩、

作家諸田玲子氏の作品を読むのは、もちろん初めてであり、「お鳥見女房」がどのような作品なのかの事前情報も無しで、ふっと手を伸ばし借りてきた書だが、読み始めてまもなく引き込まれ 一気に読んでしまった。
どうやら、「お鳥見女房シリーズ」の第1弾目で、「蛍の行方」「鷹姫さま」「狐狸の恋」「巣立ち」「幽霊の涙」「来春まで」等 続作があることが分かった。

江戸城の西北、雑司が谷の組屋敷で暮す 代々お鳥見役を務める矢島家の家付き女房珠世(たまよ)を中心とした、情緒ある人情物時代小説である。
珠世は、23歳を頭に、4人の子供を持つ主婦、小柄で華奢なのにふくよか、丸顔に明るい目許、よく笑い、両頬にえくぼが出来る、実際の歳よりずっと若く見える女性、悩み、問題も胸の内に収め、周囲を明るくする中年女性だ。そんな珠世の圧倒的な存在感が 物語の主題になっている。
お鳥見役とは、将軍家の鷹狩りの鷹匠の下職で、鷹の餌となる鳥の棲息状況を調べたり、鷹場を巡検したり、鷹狩りの下準備したりする役職だったが、実は、遠く他国に出掛け、他藩の状況を調べたり、測量や地図を作ったりする、隠密のような危険な裏の任務が有った。
決して広くない屋敷に、婿である当主、お鳥見役矢島伴之助、妻珠世、隠居した珠世の実父久右衛門、お鳥見役の跡継ぎ長男の久太郎、剣術に打ち込む次男の久之助、年頃の次女の君江が 住んでおり 他家に嫁いだ長女の幸江が、息子を連れて出入りするという平穏で慎ましい暮らしをしていた矢島家が、ひょんなことから事態が大きく変わる。
父親の仇討ちのため江戸に出てきていた女剣士の沢井多津と、その多津の仇であり、小田原藩を脱藩し江戸に出てきていた5人の子持ち剣客浪人の石塚源太夫が、同じ日に、矢島家の居候になるという、現実的でない、やや無理な設定で、物語が始まる。
以後、様々な事件が次々を襲い掛かるが、常に笑顔を絶やさず、前向きに対処する、珠世の機転と情愛を描いている。登場人物のキャラクター描写が丁寧に為されており、イメージで、俳優(女優)の顔が浮かんくるようだ。
舞台となっている、江戸時代の雑司が谷周辺や鬼子母神の風景描写が 随所になされており、何年か前の正月に 「雑司が谷七福神巡り」で そぞろ歩いたことのあるエリアでもあり なんとなく情景想像が出来る。 
お鳥見役だった祖父は、裏の任務で他国に出向いたまま不帰の人となり、夫であるお鳥見役伴之助もまた、裏の任務で、駿河に出向いたまま、消息不明になってしまう等、武家の試練にも耐えなければならない立場の珠世であるが、関わる者皆に、明るく、優しく 情を施し、笑顔で接する珠世。下級武士、小録の矢島家で、7人もの居候を1年間も養える経済力が、果たして有りや無しやとか、非現実的な物語ではあるが、全体、どことなくゆったりした時間が流れる、江戸時代版 大家族ホームドラマっぽく 単純に心地好く、面白い。
次男久之助は、父親伴之助の行方不明を知り、一人駿河へ旅立ち、1年も世話になった剣客浪人 石塚源太夫も、ほぼ決まった松前藩藩士への道を捨て、珠世の夫伴之助の行方を探しに駿河に向かうところで、物語が終わっている。
果たして 伴之助は無事生還するのだろうか。
「蛍の行方」につづく。